MRIアプローチ:問題を維持させている悪循環を断ち切る心理療法
- 6月7日
- 読了時間: 9分
更新日:7月4日

問題を解決しようと対処しても、うまくいかないどころか悪化してしまう。
そのような状況に陥ることってありませんか?
不登校…家族が登校を促しても登校できない状態が続く。
依存症…家族がやめさせようと説得しても依存が弱まらない。
問題に対処しようとする努力や行動が実は問題を維持させていることがあります。
問題への対処行動が悪循環に加担しているということ。
私たちはそれに気づかずに努力や労力を費やしてしまうことがあります。
この記事では、そのような悪循環を断ち切る心理療法を紹介します。
MRIアプローチというブリーフセラピー(短期療法)の一派です。
問題を抱えている方がこれまでと違う視点を得ていただくよう解説します。
1. MRIとは
MRI(Mental Research Institute)とは、アメリカのカリフォルニア州パロアルトに設立された研究機関です。
主要メンバーは、J.H.ウィークランド、P.ワツラウィック、R.フィッシュ。
もともとは家族療法の流れで発展しました。
その流れの中で問題をシステムや相互コミュニケーションの視点でとらえる心理療法が生み出されます。
MRIで構築されたブリーフセラピー(短期療法)をMRIアプローチと呼んでいます。
問題を維持しているものは何かを見立て、悪循環を断ち切ることを特徴としたアプローチです。
ブリーフセラピー(短期療法)については他の記事で紹介していますのでご参照ください。
2. 「偽解決」:良かれと思った行動が問題を維持する
私たちは、問題が起きている時に対処しようとします。
しかし、実はその対処行動が問題を維持させていることがあるのです。
これを「偽解決(ぎかいけつ)」と呼びます。
問題の改善のためにとっている行動自体が問題を維持させるものになっているのです。
例で示しましょう
幼稚園へ上がった女児が母親との別れに激しく不安を感じて泣くため、母親は毎日幼稚園で一緒にいなければなりません。 幼稚園関係者も困り果てて、なんとかこの母子を離そうといろいろと試みますが、ことごとく失敗。 父親は仕事ばかりの人で、母親の大変さをわかってくれず、母親はいつも寂しさを感じています。 (『変化の原理:問題の形成と解決』2018 より事例を拝借) |
女児が行き渋るため、母親は毎日幼稚園で一緒にいようとします。
母親が努力して行っている対処行動は“偽解決”となり、問題は改善するどころか維持されてしまいます。
3. 問題状況をシステムで捉える
“偽解決”に気づくためには、問題状況をシステムとしてみる必要があります。
まず家族全体を一つのシステムとして捉えます。
システムとして捉えた場合、家族を単なる家族成員の集まりとは考えません。
相互に作用し合って、数の総和以上の機能を持つと考えるのです。
そして、家族システムの中でたまたま問題や症状を抱えた人をIP(Identified Patient)と呼びます。
IPは「患者と見なされる人」という意味を持ちます。
この事例では女児。
IPに問題があると考えるのではなく、家族システムに何らかの不具合があり悪循環が生じていると考えます。
例えばこのような解釈ができます。

このように見ると、問題はIPである女児ではなく、家族システムの悪循環にあるとわかります。
4. なぜ問題は続いてしまうのか
ここでシステムが持つ性質の一つを説明します。
「自己制御性」:システム内で何か問題が生じた場合に、システム自体が解決しようとする自動的な働き。
システム自体は変化せずにシステム内での変化によって調整しようとする働きです。
システムを安定させようとして起きる働きと言えます。
ホメオスタシスのようなものをイメージしてください。
体温を一定に保つための生体の体温調節
室内を一定の温度に保つためのエアコンの自動温度調整機能
みたいに。
システムにはこのような自己制御性という性質があるのです。
会社のチームで重要な役割を担っていた人が退職した時を思い出してください。
その人がいなくなると絶対にチームは回らなくなるという心配があったはずです。
ところがどうでしょう?
空いた穴を補う他の人が現れたり、チーム全体でカバーしたりして、意外と回っていませんか?
これもシステムの自己制御性です。
チームに歪みが生じたりIPが生まれたりしなければ、何も問題ありません。
自己制御性をご理解いただいたところで、次は「第一次変化」と「第二次変化」の説明をします。
システム内に何か問題が現れた時に改善しようとする変化は2つに分けられます。
「第一次変化」:自己制御性の働きによってシステム内部で起きる変化。
先の事例では、母親が毎日幼稚園で一緒にいようとする努力や行動です。
この行動は、状況を改善させずにむしろ悪循環を維持させる要素になっていることは先ほど述べました。
「第二次変化」:システム自体の変化。
システム自体が変わることでシステム内に現れていた問題が改善する、そのような変化です。

事例の続きで見ていきます。
ところがある日、母親が娘を幼稚園に送って行けない日がありました。 そこで父親が会社へ行く途中に娘を送っていきました。 すると、娘は意外に落ち着いて登園することができたのです。 それ以降は、娘は泣かずに登園するようになりました。 |
たまたま母親が体調不良で休んだことで母子が離れ、代わりに父子の結びつきを生んだのです。

システムの悪循環が崩れて、女児が適応しやすい新しい方向にシステム自体が再構成されたのです。
このようなシステム自体の変化が「第二次変化」です。
この事例はたまたまのハプニングによって第二次変化が起きましたが、できればシステムの悪循環を把握し、意図的に変化を起こしたいところです。
しかしながら、システムというのは、
その内側にいると、わかりにくいものです。
システムを外側から眺めないとわからないのです。
独力でケースを見立てるのは大変なので、時には専門家に相談することも必要かもしれません。
5. MRIアプローチで行うこと
ここまでブリーフセラピーのMRIでは、問題事例をどのように捉えるかを説明してきました。
実際のMRIアプローチのセッションでは、私たちセラピストが何を行うのかをお伝えします。

6. 事例
具体事例を見ていきましょう。
MRIアプローチが効果的なよくある事例をわかりやすいようにシンプルにしてあります。
事例 うつ状態をめぐる夫婦の悪循環 妻:50代後半の女性(IP) 気分の落ち込みや意欲低下が続き、家事が思うようにできなくなっていました。 夫:60代前半 定年後の再雇用で以前より仕事の負担が減り、家にいる時間が増えています。 もともと夫は、 「自分が納得できるようにやりたい」 というこだわりの強い性格でした。 妻を助けようとして、料理・掃除・洗濯などの家事を積極的に引き受けるようになります。 しかし夫は、ただ手伝うというより、 「自分のやり方で完璧にやる」 傾向がありました。 その結果、妻は少しずつ家事から離れていきます。 もちろん、調子が悪く動けない日もあります。 実際に支援が必要な状態でもありました。 ただ一方で、 「自分は何も役に立っていない」 「家にいても意味がない」 という感覚も強くなっていきます。 専業主婦として長年家庭を支えてきた妻にとって、家事は単なる作業ではなく、自分の役割や存在意義とも結びついていたのです。 すると妻はさらに抑うつ的になり、動けなくなります。
夫は、 「自分がもっと支えなければ」 と考え、ますます家事を引き受けるようになります。 |

夫は善意で支えています。
しかしその支援が、結果として妻の無力感や存在意義の喪失を強める“偽解決”になっていたのです。
このケースでは、夫婦のどちらかが悪いわけではありません。
夫は妻を助けたい。
妻も怠けているわけではなく、本当にエネルギーが低下している。
ただ、「支えるほど妻の役割が減る」という悪循環が夫婦システムの中で生じていたのです。
◆MRIアプローチで考えられる介入
MRIアプローチでは、
「誰が悪いか」
よりも、
「何が悪循環を維持しているか」
に注目します。
このケースでは、夫の全面的な肩代わりが悪循環の一部になっている可能性があります。
そこで例えば、
・妻が担える小さな家事役割を残す
・夫が“完璧にやる”ことを少し緩める
・妻が「してもらう側」だけにならない場面を作る
・家事の効率よりも“役割感”を優先する
などが第二次変化につながることがあります。
例えば、
妻に特定の家事を任せる、
あるいは部分的に任せる、
ことで役割を感じられるようにします。
(調子が良くない時は夫がフォロー)
すると妻は、
「まだ自分にもできることがある」
という感覚を持ちやすくなります。
また夫側も、
“支える=全部やること”
ではないという新しい関わり方を獲得していきます。
重要なのは、
家事能力そのものではなく、
夫婦システムの中で妻が「役割」や「存在感」を回復できるかどうかです。
MRIアプローチでは、このように悪循環を維持している相互作用に介入し、システム自体の再構成を目指していきます。
7. まとめ
MRIアプローチの特徴をまとめると下記のようになります。
・原因や問題を追究しない短期間の心理療法
・個人に問題があると考えず、システム全体の悪循環に注目する
・システム自体が変化することを目指す
とてもユニークな発想をする心理療法ですが、もちろんこのアプローチですべてうまくいくわけではありません。
ブリーフセラピストによっては、ケースに応じてMRIとSFA(解決志向アプローチ)を使い分けたり組み合わせたりしています。
私も両方を組み合わせてケースにふさわしい対応をしています。
SFA(解決志向アプローチ)については、今後の記事で紹介します。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。
【参考文献・サイト】
・P.ワツラウィック, J.H.ウィークランド, R.フィッシュ(著), 長谷川啓三(翻訳)(2018) 変化の原理:問題の形成と解決 法政大学出版局
・R.フィシュ, J.H.ウィークランド,L.シーガル(著), 鈴木浩二,鈴木和子(監修),岩村由美子,渋沢田鶴子, 鈴木浩二,鈴木和子(訳)(1986) 変化の技法:MRI短期集中療法 金剛出版
・若島孔文, 長谷川啓三(2018) 新版 よくわかる!短期療法ガイドブック 金剛出版
▽著者について 小林いさむ 公認心理師。ブリーフセラピスト。対人コミュニケーションの心理学を専門とし、職場や日常の人間関係における信頼関係の築き方をテーマに発信・相談対応を行っています。個人向けカウンセリングの他、対人関係に関する情報発信にも力を入れています。 |


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