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ブリーフセラピー:短期間で効果的に変化を起こす心理療法

  • 5月10日
  • 読了時間: 9分

更新日:2 日前





「カウンセリングって時間もお金もかかるのかな…」

「なるべく短期間で効果を感じたい」

 

カウンセリングを受ける側としてはそんなふうに思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

カウンセリングというと、カウンセラーと一緒に時間をかけて自分の心と向き合っていく作業をイメージします。

過去を振り返り、問題や原因を深く洞察して、それらを改善していく。

そのようなカウンセリングがありますし、それを求めて受ける方もいらっしゃいます。

 

一方では、問題や原因を追究せずに解決に向けて変化を起こしていく、そのような心理療法もあります。

結果的に時間をかけず短期間で済むことになります。

 

この記事では、そのようなブリーフセラピー(短期療法)と呼ばれる心理療法について紹介します。

カウンセリングにはいろんな手法がありまして、こういうものもあるのかと知っていただけると幸いです。












 

1.   ブリーフセラピー(短期療法)とは

 

心理療法やカウンセリングにはコストがかかります。

森俊夫氏(2015)によれば、「時間的コスト」「経済的コスト」「心理的コスト」の3つが挙げられます。


 


 

いずれも回数が多くなるほど負担が増えるので、できるなら少ない回数で済ませたいですよね。

 

 

「ブリーフ(brief)」は「短期」と訳されます。

 

「短期」という言葉に反応してしまいますが、先人のセラピストたちによって効果や効率を追究していった結果、短期間で終えられるセラピーが出来上がったのです。

 

「短期」というのは結果にすぎなくて、効果的で効率的なセラピーを行っていれば、少ない回数で終えられるということなのです。

 

 

ブリーフセラピーが世の中に出てくるまでに主流だったセラピーを順番に辿ると、このようになります。


 

 


上記の過去や成育歴に遡ったり無意識の世界を探索したりする手法、受容と共感により自己成長を促す手法などは、どうしても時間がかかります。

(私は実はそういうのも好きですけど…)

 

先述したコストのこともあって、効果性と効率性を追究した結果、ブリーフセラピーという手法が生まれたのです。

 

 

ブリーフセラピーがどのくらいのセッション回数を要するのか、1例を紹介します。

解決志向アプローチを開発したアメリカのミルウォーキーにあるBFTC (Brief Family Therapy Center)では、4回までに80%のクライエントが終了し、平均面接回数は2.9回と報告されています。

 

「短い!」

 

すべてのブリーフセラピストにそれができるわけではありませんが、短いですよね。

 

 

短期間で済む理由は、ブリーフセラピーが問題や原因を追究しないところにあります。

 

ブリーフセラピーの特徴として、

個人や家族の誰かの問題や病理よりも、

 

コミュニケーションの相互作用や全体のシステムに注目する

過去よりも未来を志向する

 

点があります。

 

これによって、問題や原因を追究しなくても解決に向けた変化を起こすことができるのです。

 

 


 

  2.   ブリーフセラピーの誕生

 

ブリーフセラピーとして分類される心理療法にはいくつかの流派があります。

それらの流派の総称として「ブリーフセラピー」という言葉が用いられていると考えます。

 

そして、各流派にはその源流となる共通の人物、その人物の思想や臨床実践があります。

 

ミルトン・エリクソン(Milton H. Erickson 1901-1980)です。

 

アメリカの精神科医・心理学者で天才的なセラピストと言われています。

主に催眠療法を用いて、他の治療機関では治せなかった患者をいとも簡単に短期間で治していったのです。

患者とのコミュニケーションの取り方や手法が独特で、凡人ではなかなか真似できなかったようです。

(ミルトン・エリクソンについては機会があればいつか記事で書きたいと思います)

 

エリクソンの臨床に驚いたり魅せられたりした臨床家や研究者たちは、一体治療で何が起きているのかを明かしたいと考えました。

 

しかし、エリクソン自身は自分のセラピーを体系的にまとめたり書籍に記したりすることを嫌いました。

なぜなら、心理臨床では個別の患者との間での柔軟な対応を大切にしていたからです。

 

そこでエリクソンに弟子入りして学ぶ臨床家やエリクソンのコミュニケーションの仕方を研究する人たちがいました。

 

文化人類学者のグレゴリー・ベイトソン(Gregory Bateson 1904-1980)を中心として行われた、いわゆる「ベイトソン・プロジェクト」があります。

メンバーたちはエリクソンの心理臨床における多彩なコミュニケーションを研究対象として、明らかにしようとしたのです。

 

 

プログラムが終了し、メンバーたちが中心となって,MRI(Mental Research Institute)をアメリカ西海岸のパロアルトに設立し、引き続き心理臨床の研究を続けました。

 

そしてMRIのメンバーやエリクソンの内弟子たちがエリクソン臨床のエッセンスを引き継いで、さらに彼ら独自のセラピーを開発していったのです。

 


 


 

 

「ブリーフセラピー」とは何を示した言葉なのか。

端的に言い表すと、このようになります。

 

ミルトン・エリクソンの臨床実践に影響を受けて発展した、短期心理療法の一群

(森俊夫氏 2015 の定義をさらに端的にしました)

 

 

ブリーフセラピーに共通する特徴として先述した、

 

コミュニケーションの相互作用や全体のシステムに注目

クライエントのリソースを活かす

過去よりも未来を志向

 

の他にも以下の点があります。


 

 

 

ちなみに私はMRIアプローチ、解決志向アプローチ、NLPを学んでいまして、カウンセリングの実践の中に取り入れています。

今後の記事でそれぞれのアプローチについて書きたいと思います。

 

 


 

  3.   ブリーフを使ったセラピー例

 

概論的な話が続きましたが、臨床例にブリーフセラピーを用いるとどのような感じになるのか、例を示してみます。

 

実際の事例ではなく、よくある例を作成してみました。

 

 

MRIアプローチの例

 

不登校の中学2年生男子の母親の相談。

 

本人は朝になると腹痛を訴え、学校を休む状態が続いていた。母親は心配のあまり毎朝何度も起こし、励ましや説得を繰り返していたが、本人はさらにプレッシャーを感じ、欠席が固定化しつつあった。一方、父親は「甘やかしすぎだ」と母親を責めることが多く、母親は家庭内で孤立感を深めていた。その結果、母親は一人で問題を抱え込み、本人への関わりが過剰になり、本人の自立性が低下するという悪循環も生じていた。

 

セラピストは不登校の原因追及よりも、問題を維持している家族の相互作用に注目した。セラピストは母親に、「朝は一度だけ声をかけ、その後は学校の話をしない」という課題を提案した。さらに母親だけが問題を抱え込まないよう学校とも定期的に相談し、担任やスクールカウンセラーと連携体制をとることを勧めた。学校とあらかじめ打ち合わせて週に1日は朝何も声かけをせずにプレッシャーをゼロにする日をあえて作ってもらった。

 

これにより、まず母親の心理的負担が軽減された。朝の衝突も少なくなり、本人が徐々にリビングで過ごす時間や家族との会話が増えていった。そのことで父親が母親を責めることも次第になくなっていった。最終的には別室登校や短時間登校が可能となった。

 

この事例は、「問題を解決しようとする家族の努力」が、かえって問題を維持する場合があることを示しています。そして母親の孤立感や心理的負担が軽減されるように介入した結果、悪循環となっていた相互作用やシステムが変化して、本人の行動も変わったと考えられます。


 

 

解決志向アプローチの例

 

同じ事例を別のアプローチで介入する例です。

 

セラピストが状況をヒアリングしていくと、月に2〜3日は登校できる日があることがわかった。そこで「なぜ行けないのか」ではなく、「行ける日は何が違うのか」という“例外”に注目した。セラピストが家族に詳しく尋ねると、登校できた日は、母親が何度も声をかけず穏やかに接していたこと、父親が前夜に本人とゲームや雑談をしていたこと、朝食を家族で落ち着いて食べられていたことが分かった。また本人も、「午後からなら気持ちが楽」「保健室なら行きやすい」と話した。

 

セラピストは、こうした“すでにうまくいっていること”を家族のリソースとして位置づけた。そして、「登校できた日の雰囲気を少し増やすには何ができそうですか」と問いかけ、家族で具体策を考えた。その結果、母親は一人で抱え込まず、学校の担任やスクールカウンセラーへ相談するようになり、父親も朝の対応や本人との会話に積極的に関わるようになった。また、完全登校だけを目標にせず、「午後だけ登校」「保健室登校」など、小さな成功を積み重ねる方針を共有した。

 

その後、家庭内の緊張は徐々に減少し、本人は家族との会話や外出の機会を増やしていった。やがて登校日数も少しずつ増加した。

 

この事例は、問題の原因分析よりも、“例外”や“うまくいっている部分”に注目し、それを広げ、増やしていくことで、家族システム全体に前向きな変化が生まれることを示しています。




 



あるあるケースでしたが、少しイメージできましたでしょうか。

 

 


 

  4.   まとめ

 

カウンセリングやセラピーは時間がかかると様々なコストが生じます。

時間がかかる理由として、問題や原因を掘り下げてじっくりと取り組むアプローチを採用している点が挙げられます。

 

ブリーフセラピーでは、コミュニケーションの相互作用や全体のシステムに注目し、過去よりも未来を志向し、クライエントのリソースを最大限に活かしていきます。

その結果、短期間で効果的・効率的に良い変化を起こしていくことができるのです。

 

私のカウンセリングでもブリーフセラピーを取り入れています。

継続した長期間のセッションは前提にしていません。

毎回のセッションごとに方針を一緒に考え、その方針を日常生活で実践していただき、また困った時に相談してもらうスタイル(シングルセッション)をとっています。

そのため、ケースによっては初回で一旦終えることもあります。

 

私が実践しているMRI アプローチ、解決志向アプローチ、NLPについては、また別の記事で書かせていただきます。

 

 

ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。

 

 




 

【参考文献・サイト】

・日本ブリーフサイコセラピー学会 (編)(2020) ブリーフセラピー入門──柔軟で効果的なアプローチに向けて 遠見書房

・森俊夫(2015) ブリーフセラピーの極意 ほんの森出版

・森俊夫(2000) 先生のためのやさしいブリーフセラピー: 読めば面接が楽しくなる ほんの森出版

・黒沢幸子 臨床がうまくなる!浅くて深いブリーフセラピー(3)第2章:ここは押さえておきたい②ブリーフセラピーの開発 遠見書房シンリンラボ

・ピーター ディヤング, インスー キム バーグ(1998) 解決のための面接技法: ソリューション・フォーカスト・アプローチの手引き 金剛出版

 

 



 

▽著者について

小林いさむ

公認心理師。ブリーフセラピスト。対人コミュニケーションの心理学を専門とし、職場や日常の人間関係における信頼関係の築き方をテーマに発信・相談対応を行っています。個人向けカウンセリングの他、対人関係に関する情報発信にも力を入れています。

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